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東京家庭裁判所 昭和52年(家イ)4723号 審判

国籍 朝鮮

住所 埼玉県戸田市

申立人 張信子

国籍 住所 申立人に同じ

申立人法定代理人親権者母 黄礼子

国籍 朝鮮

住所 東京都新宿区

相手方 張光弘

主文

相手方と申立人との間に親子関係が存在しないことを確認する。

理由

申立人は主文同旨の審判を求めた。

当調停委員会の調停において、当事者間に主文同旨の合意が成立し、かつその原因関係についても当事者間に争いがない。

そこで調査するに、関係者の外国人登録済証明書、婚姻届受理証明書、分娩証明書、出生届受理証明書、婚姻届記載事項証明書、出生届記載事項証明書、分娩証明書、鑑定人○○○の鑑定結果、申立人の母及び相手方に対する審問の結果によれば、次の各事実を認めることができる。

(一)  申立人の母は、昭和四八年六月二九日相手方と婚姻し、二人は通常の夫婦関係を継続したが申立人の母は一度も受胎しなかつたこと。

(二)  かかるところ、申立人の母は、昭和五〇年三月頃から申立外林東城(国籍韓国昭和二四年三月五日生)と関係を生じ、昭和五〇年四、五月頃からは一週の半分以上を林方に泊るようになり、相手方とはほとんど関係がなくなつたが、その頃申立人の母は妊娠し、昭和五一年二月三日申立人を分娩し(出産予定日は同年一月二〇日)、同年二月一二日相手方名義で出生届をしたこと。

(三)  申立人と相手方とは昭和五一年三月三日協議離婚届をなし、申立人の母と林とは昭和五一年一一月一日婚姻届をなし、両名間に昭和五二年一〇月一〇日更に子が出生したこと。

(四)  鑑定によると、相手方と申立人の親子関係はABO式血液型、Rh式血液型、唾液型、血清のHP型では否定されないが、MN式血液型では相手方と申立人の母は同じN型であるのに申立人はMN型であり、また、血清のGC型では相手方は2-12型、申立人の母は2-11型であるのに申立人は1-11型であつて、いずれによつても相手方と申立人の父子関係は否定されるとの結果を得た。

(五)  本件申立は、子の出生から一年七月を経過した昭和五二年九月八日になされたこと。

以上の事実が認められる。

ところで、まず本件の管轄権については、当事者の住所がいずれもわが国にあるので、わが国の裁判所が管轄権を有し、その手続は法廷地法たる日本の家事審判法二三条に定める家庭裁判所の審判によることができると解される。また、その国内管轄権は相手方の住所地を管轄する当裁判所である。

次に準拠法についてみるのに、父子関係については法例一七条及び同一八条によるべきところ、本件はいずれも韓国民法を適用すべきものである(なお、その前提たる母子関係についてみるに、法例一八条、韓国民法八五五条によれば母子関係の形成についても母の認知を要するかの如くであるが、同法の解釈としても母子関係は分娩の事実によつて決すべく、前認定の事実によると申立人は黄礼子の子であることは明らかである。)。

韓国民法八四四条以下の規定によれば、婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定され、嫡出否認の訴によらなければ右推定を覆しえず、かつその出訴期間は子の出生を知つた時から一年とされている。しかしながら同法の解釈としても、血液型の対照により客観的に父子関係のないことが明らかな場合には右の推定が及ばないと解すべきである(日本民法に関するものとして東京家審昭和五二・三・五家月二九・一〇・一五四等)。

ところで、前記(五)の事実によれば、相手方と申立人との間には客観的かつ明白に父子関係が存しないのであるから、かかる場合には前記韓国民法八四四条の推定は及ばないと解される。

次に非嫡の父子関係の存否をみるに、韓国民法八五九条以下の規定によると、認知によつて父子関係が形成されるところ、本件において相手方から認知の効力ありと疑うべき出生届がなされているが、同法の解釈として、仮に認知があつたとしても本件の如く血液型の対照によつて明らかに父子関係が否定される場合には認知の効力を生ぜず、かつとくに認知の無効の裁判を前提とする必要もないと解すべきである。

以上のとおりであるから、相手方と申立人の間には嫡出の父子関係も非嫡出の父子関係も存在せず、要するにいかなる意味においても父子関係が存在しないものと認められる。

そうすると、当事者間に成立した前記合意は正当であるから、当裁判所は当調停委員会を構成する家事調停委員○○○○及び○○○○○の意見を聴いたうえ、家事審判法二三条により主文のとおり合意に相当する審判をする。

(家事審判官 岩井俊)

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